弊社が坂本光司先生監修の本『静岡発 人を大切にするいい会社見つけました』に紹介されました。

『静岡発 人を大切にするいい会社見つけました』という本に弊社が紹介されました。

弊社は2017年8月に発売された坂本光司先生監修の本、『静岡発 人を大切にするいい会社見つけました』に紹介されました。

弊社のことが紹介されているのはとても恥ずかしく、大変恐縮しております。私たちが大切にしていることをうまくまとめてくれてある良本だと思います。

この度、企画・編集者の(株)リッチフィールド・ビジネスソリューションさんのご厚意で、一部を紹介させていただくことになりました。

関係者のみなさまには厚くお礼申し上げます。

日本一の水道屋を目指して「利他」の経営を実践する会社

お茶どころ牧之原市で水道に関するサービスを提供しているのが有限会社トシズです。水道に関する工事からデザイン性の高い台所やバリアフリーのトイレの工事まで、水に関することならばありとあらゆることを解決してくれる地域のお助けマンです。また、近年では介護分野にも進出し、お年寄り世代にも喜ばれています。

海水浴場でにぎわう静波海岸から国道150号を西方面に向かい、牧之原市から間もなく御前崎市に入ろうかというところで右側に水色の建物が見えてきます。1階入口の奥に小さな部屋を訪ねていくと、ベテラン世代の女性が満面の笑顔で私たちを迎えてくれました。

「こんにちは、よくいらっしゃいました」。

すべてを包み込むようなすてきな笑顔から、この会社の良さがにじみ出ていました。すぐにその女性は沖本社長のお母さんだということがわかりました。お母さんは社員が口々に自慢する人で、親しみを込めて「ばぁば」と呼んでいます。後から来たお客さまも「ばぁば」の部屋に寄り、明るい笑顔になっているのがとても印象的です。

その日、私たちが帰り際、「お疲れさま」と言う声がしました。その声に振り向くと、抱えきれないほどの大きなスーパーの袋を二つ持ってニコニコ笑っている「ばぁば」がいたのです。「よかったら、これ食べて」。白い袋の中には、見たこともないような大きさのシイタケが食べきれないほど入っていました。

沖本社長のお母さんはある時は大きなミカン、ある時は漬物など、地域でしか取れないおいしい食べ物を用意してくれます。忙しい中でわざわざ用意してくれる「ばぁば」の真心が身に染みてきます。「ばぁば」はトシズの優しさの象徴です。利他の経営の象徴と言っても良いでしょう。トシズではひとたびイベントを行うと数百人のお客さまが一気に訪れます。その人気の源は「ばぁば」にあるといっても過言ではありません。

トシズが創業したのは平成4年4月13日、設立は平成13年4月13日です。スタッフの数は10名です。沖本社長の人を大切にする経営方針は、経営理念に表れています。

《経営理念》
一、社員一人ひとりの幸せと人格を大切にし、お互いに協力し助け合い、夢の有る企業作りをします。
二、大自然が育んだ貴重な水、皆様の健やかな生活を考え安全でおいしい水をお届けする企業を目差します。

工事を無料にした沖本社長

「経営とは自分のことではなく利他を追求することだとつくづく思います」と沖本社長は口癖のように言います。「利他」とは他人に利益となるように図ることであり、自分のことよりも他人の幸福を願うことです。

沖本社長は困っている人がいたら放っておけない人です。その血は「ばぁば」から受け継がれています。だから地域の方から愛されている存在なのです。

あるお宅の水道工事にお邪魔したときのことです。そのお宅は高齢のおじいさんが一人暮らしをしていました。会話をしていく中で、おじいさんは戦争体験があることを知り、つらい体験をずっと聞いてあげたのでした。その話を聞き終わったときはもう日が暮れている時間だったそうです。その後、工事費用を無料にしてしまったのです。

「工事をしたのに無料にしてしまうなんて経営者としては失格だと思います」沖本社長は笑いながらその時のことを振り返ります。「でも、おじいさんに何かしてあげられることはないかと思ったのです。ならば、せめて無料にしてあげられれば思ったのです」。

その後、おじいさんのお子さんに面倒を見てもらえるように電話をしてお願いをしたそうです。お子さんに頼むことをためらい、じっと我慢をしていたのでした。「とにかく健康に注意してください。何かあったら遠慮なく自分の所に電話くださいね」。そう言って自分の携帯電話番号を教えて去っていきました。

しばらくして、そのお宅から電話がかかってきました。電話の主はおじいさんの娘さんからでした。「先日は本当にありがとうございました。来月から母と一緒に住むことになりました。気になっていたことがクリアしました。これもトシズのおかげです」。トシズにはこのようなエピソードがたくさん詰まっています。

沖本社長の元には日々いろんな方から電話がかかってきます。お客さまだけでなく、先輩からも後輩からも、時には市長からも議員からもかかってきます。個々の電話に対してとても気さくに対応します。緊急性の高い話とあらば、すぐにかけつけます。とにかく困っている人がいたら放っておけないのです。

トシズは、高齢者見守り隊として牧之原市や御前崎市からも認定を受けています。高齢者が家庭や地域の中で孤立せず、住み慣れた地域で誰もが安心した生活を送ることができるように支援する事業です。地域の見守り隊としてこれほど心強い人たちはいないでしょう。

利他の精神の源は「ばぁば」にあり

沖本社長の利他の精神のルーツを探っていくと、お母さん「ばぁば」に行き着きます。ばぁばは常に心配りをされている方です。もったいないほどのお土産を用意してくれることも少なくありません。その行動の源は「利他」なのです。

あるとき水道工事の依頼を人づてに受けました。その工事は少し大がかりになりそうでした。しかし、聞けばその人は工事金額を支払うだけのお金を持ってなかったそうです。通常ならば、当然断りますが、ばぁばは違いました。

「お金は月末に少しずつ払ってくれればいいですよ」

そう言って引き受けてしまったそうです。そのお客さまは初めての方ですが、契約書を交わすこともありませんでしたし、身分証明書を見せてもらうこともしなかったそうです。支払期間は数年に及びましたが、一度も遅れることなく毎月少しずつ支払ってくれたそうです。それが「利他の心」なのです。

また、地域の公共トイレを仲間と一緒に20年以上も掃除を続けています。誰から頼まれた訳ではありません。自主的に活動しているのです。週に2回、朝5時から始めているそうです。静岡市街地から国道150号を西に向かうと海側に見えてくる、目立つ公共トイレです。立ち寄ると男子トイレも女子トイレもとてもきれいに掃除されていました。なぜそのようなことができるのか伺いました。

「いつもきれいに使ってありがとうと声を掛けて掃除をしています。トイレは自分の心をいちばん写すものだから大切にしないとね。それにここは外から人がくるところだから、きれいにしておかないと。また来たいと思ってもらいたいからね」と明るい笑顔で答えてくれました。

ばぁばは特に大切な事柄として、次のことを実践していると話してくれました。

・人を裏切らないこと、うそをつかないこと
・人の話を最後まで聞くこと
・口だけでは駄目。自分にできることなら進んでやること
・人の悪いところを見たら、自分はどうなのかを考えて気をつけること
・相手に嫌な思いをさせないこと
・あいさつ、身だしなみに気をつけること

最後に笑いながら次のように話してくれました。「20年もトイレの掃除ができることは幸せなことです。仲間と一緒になって清掃できることもありがたいことです。健康な証拠だしね。不思議なことに雨が降っていても終わるころには晴れているんですよ」。

トイレ掃除は自分の心を映し出す

沖本社長は会社のトイレ掃除をとても大切にしています。社長であろうとトイレ掃除を自らの日課としているのです。スポンジを手に取り、隅々まで丁寧に掃除します。会社のトイレはいつもピカピカです。

沖本社長は言います。「自分が小さいときからトイレ掃除には気をつけていました。母からも言われていました。トイレ掃除をすることでいろんな気づきが出てきます。自分自身と向き合うことで、謙虚な気持ち、感謝の心が芽生えてくるのです」。

『日本でいちばん大切にしたい会社』で紹介されている長野県の伊那食品工業もトイレ掃除を大切にしており、トシズと共通するものがあります。

「汚さないようにきれいに使うことがいかに大切かわかりますし、人の気持ちを考える訓練にもなります。トイレ掃除を真面目にやればやるほど人間力が高まると思います」。沖本社長は子供たちにもトイレ掃除の大切さを教える講座を開きたいと考えています。

近年はお客さまからトイレに関する要望も年々増えているそうです。快適な空間としてのデザイン性が高い工事から、介護面で重要なバリアフリー工事まで、幅広く対応し喜ばれているそうです。

「トイレを見ればそのお宅が幸せかどうかわかります。会社のトイレもいい会社かどうかわかります」。その言葉には説得力があります。

コミュニケーションの本質はプロレスにあり

トシズはとてもユニークな社員研修を実施しています。それはプロレスを通じてコミュニケーションの大切さを教えるというものです。その取り組みはテレビでも面白おかしく紹介されました。

沖本社長は若い頃から大好きなプロレスにのめり込み、「牧之原プロレス」という団体を立ち上げました。会社から車で5分ほどの倉庫を借りて自費でリングを購入してしまったほどの熱の入れようです。自身も「ミスターT」という謎のマスクマンを名乗り、試合に出ています。

プロレスを体験することでコミュニケーションの図り方を学ぶことができると言います。その論理は非常に深く、なるほどと納得させるものです。まず、コミュニケーションの大前提となる部分について沖本社長は次のように説明します。「コミュニケーションは情報の伝達、連絡だけではなく、意思の疎通や心の通い合いという双方向のやりとりです。その本質はお互いが理解をすることにあります。だから一方通行ではコミュニケーションとは言えません」。

なぜプロレスなのかというと「プロレスはお互いが理解していないと成立しません。例えば『相手をロープに振る』という技があります。その技を相手選手から受けたら、自分はロープに走って行ってロープの反動を利用して帰ってこないとなりません。戻ってこなければ相手の技を受けなくて済むのにです。そこに自分の感情が優先されてしまえば、ロープに振られても走らないでしょう。そうするとプロレスは成立しなくなってしまうのです。自分の感情よりもプロレスを成立させることが重要なのですから、相手がロープに振ろうとしたら、その技を全力で受け止めようとすることが大切なのです」。

確かにその通りです。そこに「自分は相手の技を受けたくない」「自分の技だけを相手にかけたい」という自分の感情のみで動いていたらプロレスは成立しないのです。

沖本社長はコミュニケーションとプロレスを結びつけます。「これをコミュニケーションに当てはめると、相手の技を受けるということは、まずは相手の言っていることを遮らずに受けとめることです。しかし、自分の感情が出てしまうと相手を遮って自分が話をしてしまうことがあります。」振り返ると、仕事でも日常生活においてもそのような状況になることは多々あります。「大切なのは、自分の感情を出すことよりも、コミュニケーションを成立させることなのです。だから、いかに相手の技である言葉を受け止め、その時にわき上がる感情をコントロールして最後まで聞くことができるかなのです」。

沖本社長の論理は、傾聴のスキルに通じます。「それにより、コミュニケーションの最も重要な目的であるお互いの相互理解が進むのです」。

コミュニケーションが図れない主な要因は「個人の感情やそれまでの習慣」が邪魔をしているからです。問題なのは、それらは無意識のうちに沸き上がってくるということです。これは訓練しないと克服することはできません。それを沖本社長は若手社員にプロレスを通じて教えているのです。

「まずは相手の技を受けること」を沖本社長は徹底しています。

誰しもが経験のあることですが、相手とのコミュニケーションはこちらが聞く気にならないと成立しません。同様に相手にも聞く耳がなければ、こちらがいくら訴えてもコミュニケーションは成立しません。

自分の言いたいことだけを伝えてもコミュニケーションは成立しないのです。自分が言いたいことを言えば言うほど相手に高度な受け止めのスキルが求められます。反対に、相手が言いたいことを受け止められるほど高い傾聴のスキルを持っている人も決して多くないのです。そうしたことに気がついている人はとても少ないのです。

トシズのこのコミュニケーションスキルは、他の会社との差別化要因となります。日頃、私たちは「自分自身に沸き上がる負の感情・習慣・思考の癖」に無意識のうちに支配されています。だから、無意識のうちにお客さまの要望や地域の人たちのリクエスト、社員同士の大切な情報を遮ってしまっているかもしれません。それでは状況は変わらないのです。そこから脱却し、コミュニケーションを確実に成立させて、お客さまや地域の方に喜ばれ、自分たちやりがいや待遇の充実につなげた方がよほどいいのです。

沖本社長は「いい関係を構築するために、こちらから積極的に提案するのが大事ですが、そうなるためにもまずは相手の技(要望)を受けきることが大事です」と語ります。トシズはそのことを愚直に実践しているからこそ、お客さまや地域の人に必要とされているのです。

お客さまのために気づきの営業をする坂本さん

女性社員の坂本さんはトシズの営業を担当しています。坂本さんは人と接するのが好きで営業の仕事が自分に最も向いていると思っています。彼女の素晴らしさは、お客さまからただ言われたことをするのではなく、積極的に問題点に気づいて最適な解決策を考え素早く提案することで、お客さまが予想以上に喜ぶ営業を得意としている点です。この気づきの力とスピード、コミュニケーション力は突出したものがあります。

その原動力となっているのは「ばぁば」です。坂本さんもその魅力に魅了されている社員の一人です。ばぁばはコミュニケーションをとても大切にしています。坂本さんも日頃から双方向のやり取りを実践することでお客さまからの大きな信頼を得ています。

坂本さんとあるご夫婦とのエピソードを紹介します。きっかけは牧之原市からの依頼の仕事です。市営住宅に住んでいるご夫婦のお宅に水回りの修理に行き、献身的なサービスが喜ばれました。ご夫婦はトシズで介護事業もやっていることを知ると、介護ベッドも購入してくれました。

坂本さんは毎月、問診訪問とリース代の集金に行くようになりました。ご夫婦は健康面で不安を抱えていました。旦那さんが脳梗塞で倒れ、奥さんは喉頭がんになり声を失ってしまったのです。ご夫婦の力になろうと常に心を配って対応してきました。ご夫婦と意思の疎通ができるようにホワイトボードを用意し、何度も何度も繰り返しコミュニケーションをとってきたのです。ご夫婦は坂本さんが来るのを楽しみにしていました。いつも彼女が大好きなコーヒーを用意して迎えてくれるのです。
奥さんは旦那さんに何かあった時、自分が声を出すことができない不安を抱えていました。何度か役所に相談を持ちかけましたが、なかなか想いが伝わらずに困っていました。それを知った坂本さんは奥さんに代わって役所に足しげく通い、奥さんの思いを伝えました。

奥さんの通っている病院は牧之原市から車で1時間ほどの浜松市にあります。バスと電車を使うと2時間ほどかかります。奥さんが病院に行っている間、旦那さんにもしものことがないようにご夫婦は浜松へ引っ越すことを決意しました。そこで坂本さんはご夫婦の声となって牧之原市と浜松市の双方の役所に連絡をし、引っ越しができるようお手伝いをしました。
2016年4月、ご夫婦は無事に浜松に引っ越していきました。坂本さんは「とても寂しいですが、無事に引っ越しができてよかったです」と目に涙をいっぱい浮かべていました。それから約半年後、坂本さんの元に手紙が届きます。その手紙にはご夫婦の近況と坂本さんへの気持ちが書かれていました。

「私たちは二人とも元気です。安心してください。先日テレビで相良油田の栗拾いの特集を見ました。牧之原を懐かしく感じています。いつもあなたのことを思い出しています。会えなくて寂しいですがあなたも無理をせずがんばってください。お体を大切にしてください」。

もう一つのエピソードを紹介します。ある方の紹介でトシズに仕事が入りました。坂本さんが対応したところ、あるお宅のトイレのリフォームについて相談されました。スピーディーな対応、明朗快活で丁寧な説明、そして気遣いが評価され、旦那さんは「この人なら間違いない」と思い、お願いすることにしたそうです。気がついたらトイレだけでなく、キッチンのリフォームや浄水器の取り付けといった新たな仕事が生まれていきました。

お客さまは次のようにお話になりました。「トイレが縁で坂本さんの笑顔に出会えました。予算オーバーだったけれど、坂本さんだから決めました。本当に感謝しています」。

その方は奥さんが亡くなられてずっとお味噌汁を飲んでいなかったそうです。坂本さんが何気なく旦那さんに好きなお味噌汁を聞くと、「わかめのお味噌汁」が好物だということがわかりました。坂本さんは早速材料を準備し、その日のうちにお宅に行き、わかめの味噌汁を作りました。

旦那さんは優しく温かい味噌汁に大変感動され、飛び切りの笑顔を見せてくれたそうです。次の時は旦那さんがカツ丼を用意してくださり、一緒に昼食を食べました。

坂本さんは次のように振り返ります。「お味噌汁を作ることも特別なことではありません。お客さまが困っていたり、辛そうであれば、自分ができる限りのことをしてあげたいと思っています。関わらせていただいたお客さまの力になることが私の喜びだからです」。

坂本さんに寄せられたお客さまの声を紹介します。

・こんなに早く対応してくれて感謝
・女性なのに修理までできるなんて驚いたよ
・坂本さんにお願いをしたい
・ここまでやってくれるなんて思わなかった。本当にありがとう
・的確に指示している姿を見て社長だと思ったよ

お客さまは坂本さんと話していると皆自然と笑顔になっていきます。

ある日、坂本さんが市役所に行くというので同行しました。驚いたのは、行く先々で坂本さんがいろいろな人から話しかけられていたことです。どの課でも坂本さんを知らない人はいないのではないかと感じられるほどです。「坂本さんが来たら〇〇のことを聞こうと思っていました」と坂本さんが来るのを待っていた職員もいました。日頃から高い信頼関係を構築できていなければそうはなりません。

次に一般のお宅のお風呂と洗面所のリフォームの現場に行きました。ちょうど汚さないようにおおいをかけて保護をしていたシートを取っている段階でした。坂本さんは、さっと雑巾を出したかと思うと、入口からお風呂場、洗面所にかけてきれいに清掃を始めたのです。

そして、お客さまに効率的な清掃方法も示していました。最も効率的な清掃方法を先ほどの清掃の実体験から導いたのです。お客さまから「ここまでやってくれて本当にありがとう」と感謝されていました。

坂本さん自身も次のように言います。「私は営業だけでなく、実際に現場で状況を見せてもらうことがとても大切だと思っています。よりお客さまのためになる具体的な提案が可能となるからです。お客さまとの関係が築けるのは電話だけでは難しいのです」。

次に浄化槽の仕事をしたお宅に同行しました。このお客さまは電話でのやり取りのみで実際にあって話すのは初めてだったそうですが、とても親しそうに話をされる点に驚きました。お客さまもいつの間にか笑顔になっているのです。さらに、仕事につながるような情報をお客さまが教えてくれました。早速、坂本さんは次に生かそうとメモを取りました。

坂本さんが常に意識している点は以下の点だそうです。

・お客さまを待たせない。
・連絡が来たらもちろん、連絡が来る前に自分で一度現場に行く。
・自分でできることは自分でやること。嫌々やってはいけない。
・確認をしにいくこと。できれば3回、最初、途中、最後の3回。
・まめにお客さまのところへ行く。だからこそ次につながる。現場を見て覚える。
・問題点を明確にして具体的に提案する。見積書もすぐに出す。
・目先の利益よりもその先にある満足度を求める。

坂本さんは、これからの目標として、自分も図面を書けるようになりたいという目標を掲げています。

お客さまから信頼される技術を確立した河原崎さん

現場工事のリーダーとして、責任ある立場の仕事を受け持っているのは河原崎さんです。ある日、河原崎さんの現場へ同行すると、ちょうどお客さまのお宅の庭先で古い水道の管を新しいものに変える作業をしているところでした。

見ていると実に理にかなった動きをされています。ある部材を土の上に水平に配置する時に、一発でぴったりと合わせることができます。調整作業をなるべく省けるように土の盛り方からパッキンの使い方まで細かな工夫がされています。土を盛ったり削ったりする調整作業は、その分だけ時間がかかるのです。

「調整作業は時間のムダです。なるべく調整作業をなくすためにはどうしたらいいかを考えて段取りをする事が効率よく工事をすすめるコツです」。それにしても一つ一つの動きがてきぱきとしていて見事です。

河原崎さんの技術は、先輩たちのやっている姿を見て覚えていったそうです。当時の先輩たちは「教えられて身につくものは本当の技術にならない。自分で盗め」という人が多く、河原崎さんもそうした時代の中で自分自身模索しながら仕事を覚えてきました。先輩たちの技術を必死で盗み、失敗を繰り返しながら自分なりのアレンジを加えて現在の技術を確立したのです。
「自分はまだまだです」と河原崎さんは言いますが、技術の世界は天狗になったら終わりです。常に謙虚で向上心を持ち続けることが第一線で活躍し続けるためには不可欠です。

これからの若手については次のようにエールを送ります。「だれでも仕事に本気で取り組むことができれば、技術は必ず上達します。その覚悟があるかどうかが大切です。仕事を面白くするのもつまらなくするのも自分次第。初めは何もわかりませんでしたがコツコツと積み重ねたことでここまでくることができました。次は社長のようにしっかりと仕事を提案することがテーマです」。

次の自身の目標も明確になっている河原崎さんは、施主の方との話し方も明るく実に的確で、とてもいい印象を与えます。施主の方も「これなら安心だ」と笑顔で河原崎さんとの会話を楽しんでいるかのようでした。
「次につなげられるように会話を大切にしています。いい仕事をして、お客さまからまた自分にお願いしたいと言われるようになることが最低ラインです。ベストの工法を提案し、工程通り実行することが自分の使命です」心配りの工事をできることが、最大の強みとなっています。

イベントとお客さまの声

トシズは地域の人たちを大切にしています。その取り組みの一つとして、毎年1回、テーマを決めて地域の方に対する大きなイベントを開催しています。イベントには数百人が訪れます。もちろん、参加は無料です。

2015年度のイベントは11月に催しました。テーマは「介護」。健康な水やトイレ用品、介護用品等を紹介したり、豚汁や景品をプレゼントしました。スタッフは皆優しく来場者をもてなします。

朝から「ばぁば」は豚汁の仕込みに大忙しです。来場者にはまず豚汁のプレゼントがあります。「おいしい」という声があちらこちらから聞かれ、見る見るうちに豚汁がなくなり、新しい豚汁を作るほど大人気でした。

子供たちに人気なのはサッカーや輪投げなどのコーナーで、子供たちの笑顔が広がりました。商品紹介の合間には、リングの上ではプロレスの模擬試合が行われました。初めて観る人も多く、大きな歓声が上がっていました。

来場者に対してアンケートを実施すると、回答者数はなんと178名。いかに地域に根付いてきた会社かがわかります。

アンケートの最後にはイベントの感想欄がありますが、非常に多くのコメントが寄せられました。イベント自体の温かさ、おもてなしや対応の良さ、豚汁のおいしさ、プロレスに関する感想も多く見られました。

地域の方々の一つ一つのコメントがとても温かく、会社の魅力そのものを表しています。中には地域の皆さんがトシズをいかに応援しているかがわかります。

「あたたかいおもてなしありがとうございました」
「豚汁がとてもおいしくてサービスも良く楽しかったです」
「友達に誘われてきました。とてもたのしいです。豚汁おいしい」
「暖かみを感じたイベントでほっこりしました」
「老若男女大勢の人が集うのはとてもいいことだと思います。介護まで視野に入れているとはさすがトシズ!!」
「いつも来ていますがだんだん良くなってきました。今日はありがとう」
「初めて見せていただき感動しました。」「初めて来ましたがとてもよかったです」
「大勢の人が集まってきてくれるのはとてもうれしいですね。日本一の水道屋さんになることを祈っています」
「プロレス技が観られて良かった。おもてなしが非常に良かった。」
「プロレスは若い人でも骨が大丈夫かな。気をつけてやってね」
「プロレス楽しかったです」「初めてプロレス、すごーい」「プロレス初めて観ました。迫力があります」
「牧之原プロレス応援しています」

自らの苦い体験をもとに

沖本社長は初めから順風満帆だったわけではありません。むしろ、失敗を繰り返しながら今のスタイルになっていったと言えるでしょう。

今から10年ほど前、トシズは業績が急成長し、飛ぶ鳥を落とす勢いで進んでいた時代があったそうです。沖本社長はやること成すことがうまくいって、「自分には怖いものがない」と思ってしまうほどだったそうです。

しかし、その時代は長く続きませんでした。

当時の油断と甘さが部下にも浸透し、会社全体が「なあなあ」の状態になりました。チェックをするべきところを怠るようになり、誰もが自分のことしか考えないようになりました。クレームが出てもお客さまへのフォローが徹底されませんでした。

その状態でいい仕事ができるはずがありません。その結果、お客さまの信頼を失い、受注金額が激減したのです。このままではいけないと気づいたときには社員も大量に辞めてしまった後でした。

沖本社長はいい時の状態に自分自身に甘えてしまい、自分を高めることを怠ってしまったのです。「本当に調子に乗っていました」と当時を反省します。「その時に、やっぱり経営の神様はみているのだと気がつきました。やはり大切なのはいい時こそ自分を戒め、常に人のために経営をすることを貫き通すことだと痛感しました。情けないことに、お客さまと社員を失ってみて初めて気がついたのです」。

自身の苦い体験から、人を思いやる気持ちの大切さに気づき、変わっていったのです。失敗を忘れず自分自身を常に高めようと、将来につなげようとする意思が復活への足がかりとなったのです。もともと人を思いやる気持ちを大切にしていた家庭で育ってきた沖本社長でしたが、なぜそれが大事なのかを自身の苦い体験の中から理解したのでした。

トシズ憲章
沖本社長は「このままではいけない」という危機感を持ちました。そして、あらためて経営理念を構築しました。会社は社員とその家族のためにあり、いつまでも夢を追えるようにするべきだという考えのもとでつくられたのです。
《経営理念》
一、社員一人ひとりの幸せと人格を大切にし、お互いに協力し助け合い、夢の有る企業作りをします。
二、大自然が育んだ貴重な水、皆様の健やかな生活を考え安全でおいしい水をお届けする企業を目差します。

いい会社をつくっていくためには、社員全員が理念や目的、あるべき姿を共有し、強い意志で遂行していくことが不可欠です。そして、社内の仲間やお客さま、地域の人々に対して貢献する意欲を持ち、コミュニケーションを図っていくことが原則です。

レクサスという自動車ブランドがありますが、その成功の裏には、最高の品質の車と最高のおもてなしサービスに徹底的にこだわり、かけがえのない「人財」による並々ならぬ努力によってそれらの提供を実現したことが背景にあります。その原動力となったのは、「レクサス憲章」というものをスタッフ全員で共有したことにあります。共有の証しとして、レクサスの全社員がレクサス憲章にサインをしたそうです。

沖本社長はその成功秘話に大変感銘を受けたそうです。「レクサス憲章」を参考にして「トシズ憲章」を社員と一緒につくっていきました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「トシズ憲章」
トシズは地域で最も早く!お客様の基に駆けつけ水回り修理を行います。
二十年以上にわたるトシズの歴史が生み出したお客様に対する心構えを大切にし、水道屋史上最高の会社を目指します。
トシズは必ず勝利をおさめます。
なぜなら、トシズは物事の源流にたちかえって基本から正しいやり方を実践するからです。
トシズは業界最高のサービスを提供いたします。
そして、お客様一人ひとりを自分の自宅にお迎えするのと同じ気持ちでもてなします。
信じなければ、実現することはできません。
信じれば、必ず実現できます。
私たちには、実現出来る力があります。
そして、私たちは必ず実現します。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

また沖本社長は、社員からの意見を取り入れて、社長としてのあるべき姿として十カ条を作成しました。常に心がけていることをも含めて、大切にしていることを行動指針としました。

トシズ社長の十カ条
一、義理と人情を大切にします!
二、礼儀を大切にします!(笑顔で挨拶します。)
三、感謝を忘れません!
四、社員とその家族を大切にします!
五、利益が出たら、還元します!
六、言った事はきちんと約束を守ります!
七、いつも笑顔で怒鳴ったりしません!
八、笑顔で挨拶します!
九、事務所のトイレいつもきれいにしておきます!
十、道路の花壇をいつもきれいにしておきます!
沖本登志春

そして、社員を集めて「自分はまだまだ至らないけれど、日本一の社長になれるようがんばるよ」と宣言しました。十カ条には社員全員のサインが入っています。

トシズ従業員の十カ条

社長の十カ条と同じく、社員も十カ条を決めました。一つ一つがとても大切な日常の取り組みであり、基本的なことです。当たり前のことを当たり前のように徹底して行う尊さを社員はわかっているのです。

トシズ従業員の十カ条
一、あいさつを元気よく
二、イライラしない
三、現場でのお礼はしっかり言う
四、言われたことはすぐやる
五、掃除(後片付け)をしっかりやる
六、工具はキレイに使う
七、自分で抱え込まない
八、お互いに協力し合う
九、ファンをもっと増やす
十、メリハリをつける

ここにも全社員のサインが書かれています。

会社はチームプレイが重んじられます。強いチームを作るためには、個人の感情よりもチームのために尽くすことが重んじられます。自分の感情が出てきてしまうと会社として大切にしなければならないものが大切にされなくなってしまうからです。そのための十カ条なのです。

計画、実行、チェック、カイゼンのサイクルを回すために

トシズでは経営理念や十カ条を実現するために、計画、実行、チェック、カイゼンのサイクル(PDCAサイクル)を回そうと努力しています。多くの会社でもこのサイクルを回すことに苦戦していますが、トシズも例外ではなく大変な苦労をしています。

PDCAサイクルは会社を良くする(仕事の質を高め、社員のやりがいと待遇の向上につなげる)ために回すものであるというそもそもの目的を明確にして、共有しないとすぐに形骸化してしまうのです。

世界のトップ企業であるトヨタ自動車においても「(仕事の質を高めるために)今のやり方を疑う」ことが社風として定着しており、PDCAサイクルが徹底して回されています。逆に言えば「どんなにベストなやり方でもすぐに問題点が発生するため、常によりよくしてくべきだ」という考え方(危機感)がないとPDCAサイクルは回らないのです。その結果、会社は何も変わらないまま時間だけが過ぎていくのです。

トシズも「どんなにいい状態でも問題点は必ず発生する」という原理原則を常に忘れないように努めています。あるべき姿に近づくために、毎日経営理念と十カ条を振り返るのです。どんな人でも「問題点がないことがいいことだ」と思いがちですが、「自分には問題点がない。完璧だ」と思った瞬間、大抵の人は油断が生じて「自分を高める」ことをしなくなってしまいます。その結果、同業他社やライバルに追い抜かれていくのです。

沖本社長は10年程前の自身の苦い体験を思い出し、常に自分自身を厳しい目で見るように習慣付けを行いました。

たとえ問題点がクリアされたとしても、「さらに自分を高めていこう」とする意識を持ち問題点を見つけてクリアしようと取り組むことが「あるべき姿」です。「問題点を発見してカイゼンすること」と「問題点を見つけようとせず(たとえ見つけたとしても)見て見ぬふりをすること」では1年経過する頃には雲泥の差が生じます。

PDCAサイクルを一度でも回せば会社は良くなります。回らない要因は自分自身への甘さ、危機感の足りなさが個人の負の感情として作用するからです。

トシズでは「PDCAサイクルをひとりで回せなければ、みんなで集まって回していこうじゃないか」というかけ声の下で、「場づくり」を実践しています。この場づくりは女性スタッフの間でも実践されています。トシズも女性スタッフが活躍する会社です。日頃の業務の中で、何となくわかった気にならないよう、前向きな意見を言える「場づくり」を実践しています。

それは、昼ご飯を食べるときに、テーマを決めてかつ批判厳禁で話をすることです。例えば、「今日は介護用品について」「明日はイベントについて」というようにテーマを決めてざっくばらんに話をすると、とても有意義な時間になることに気がついたのです。

新しいスタッフの大石さんは、とても前向きで明るい性格の人です。協力会社の方々ともすぐに打ち解け、現場監督ともいつの間にか仲良くなり、良い形で仕事が進みます。大石さんの魅力があふれています。間もなく大石さんの強みであるデザイン力が生かされる日が来ることでしょう。

現状維持という考えをやっつける

トシズの歩みは、社員が少しずつ成長し、その総和が会社の成長として表れた結果です。いい会社では、社員が常に成長することが求められます。いい会社はカイゼンを繰り返す(PDCAサイクルを回し続ける)ことが徹底されているからです。

私たちはついつい「現状維持」や「平凡でいい」という言葉を好みます。すると、自らを変えようとしなくなってしまうのです。変わらないままあっという間に1年過ぎてしまいます。「変わらなくていい」と思ってしまうことが最も大きなリスクなのです。

自分たちが意識しようとしまいと同業他社も必死にがんばっています。よりいいサービスを提供しようと日々カイゼンを繰り返しているとしたら、たちまち追い抜かれてしまいます。もし同業他社が先行していたら差は広がる一方です。その結果、お客さまを奪われ、売り上げが減り、利益も出なくなり、給料も下げざるを得ない状況になってしまうのです。変わらないことがいちばんのリスクなのです。トシズもその苦い経験をしました。

人は、同じやり方を何も疑わずに繰り返した方が楽であり、多くの方がそのやり方に疑問を持ちません。目の前にある仕事を全力でこなすことだけをがんばることだと思ってしまうのです。

面倒だなと思うことを見つけて、一つ一つカイゼンしてクリアしていくことが真にがんばることなのです。どんなにいい会社でも問題点は日々必ず発生します。問題点を放置すると会社はどんどん悪くなっていきます。

問題点を見つけて放置せずにカイゼンするから会社はよくなっていくのです。「このやり方で本当にいいのか、それで正しいか、常に考えること」です。

未来に向けて

トシズのこれまでの歩みは、人も企業もより良く変われることを示しています。その源にあるのは沖本社長が大切にされている利他の精神です。

より良く変わろうとすれば、小さな会社でも夢を追い、社員を大切にし、お客さまや地域に貢献し、大切にされる会社が構築できるのです。反対に「平凡でいい」「変わらなくていい」と思ってしまえば、そこで企業の成長も人の成長も止まってしまいます。それらのリスクと常に向き合うことが大事です。

そして、コミュニケーションの大切さ、傾聴のスキルの重要性についてプロレスを通じて考えているユニークな会社なのです。

来年度も楽しそうなイベントが予定されています。次回のイベントは、「水について真剣に考える」をテーマとして開催する予定のようです。

プロレスのリングの上に、市長や専門家を招いて健康でおいしい水や下水についてマイクパフォーマンスをしながら語り合える場をつくりたいと考えています。

また、沖本社長は「水玉タイガー」というマスクマンを名乗り、司会をしながらリングの上でパフォーマンスを繰り広げていくようです。会場には数百人のトシズファンが訪れることでしょう。

これからも経営理念の実現を目指して人を大切にする経営を実践し、地域の人たちのためになるよう、より良く変わることをめざし続けるでしょう。

電話する
error: Content is protected !!